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交通事故・医療過誤、その他の賠償事件

箱型ブランコによる死亡事故

昔から公園に設置されていた相向かいに座れる箱型のブランコ。ありふれた遊具だが、実は大変な危険がある。群馬県F市の公園で、この危険性が現実化して、小学生が死亡する重大事故が発生した。ブランコ外から、箱ブランコを押していた小学5年生の女の子がブランコを押したはずみに前のめりに倒れた。倒れたところに箱ブランコが振り戻しで戻ってきた。この時、地面に倒れていた女の子の頭部の上に、戻ってきた箱ブランコが乗り上げるような形となった。ブランコ自体の重量は200kgにも達するので、重大な傷害となり死亡に至った。

国家賠償法2条の「公の営造物の設置管理の瑕疵」を理由に損害賠償を請求した。

子どもの遊びはある程度の危険が伴うものであり、事故が起きたからといって裁判を起こすのはいかがなものか?という意見もある。しかし、調べてみると、子どもの遊具についても「許された危険」と「許されざる危険」があることがわかった。子どもは危険を伴う遊びの中で、「危険とうまく付き合うこと」を学んでいくのであり、遊びから一切の危険を排除しようとすることは間違いである。しかし、そのためには、子どもが体験する危険は子ども自身が危険を感じることができるものでなければならない。例えば、木登りは危ないものであるが、高い木に登ると子ども自身が恐怖・危険を感じるのであり、そうした危険を感じながら、自分がどこまで登れるかを体験することは子どもの成長のためには必要な体験と言える。

これに対して、いったん事故が発生した場合に致命的な傷害が生じかねないような危険で、しかも、その危険が存在すること自体を子ども自身が体感できないような危険に子供をさらすことは絶対にしてはいけない。こうした遊具は、子どもにとって、「危険といかに付き合うか」ということを学ぶ機会を提供しないのであり、いわば教育機能はないこととなる。他方で、その隠れた危険が現実化した場合に、致命的な傷害が生じるとすれば、そうした危険に子供を晒すことは許されないからである。

本件の箱ブランコの危険は、後者のものである。この危険は体感できないが、事故が発生した場合には重大な障害をもたらす。

箱ブランコの最も大きな危険性は、子どもはおろか、通常の判断力のある大人でも理解出来ないのが普通である。あなたは、危険の核心を正しく理解できるだろうか?

箱ブランコが揺れている場合に、その脇に立っていて、ゆり戻ってくる箱ブランコと衝突すると子どもが怪我をすることは当然ありうる。こうした危険は、子どもであっても十分予想できる危険であり、そうした危険を避けながら遊ぶことによって、子どもは危険との付き合い方を学ぶこととなる。

箱ブランコの危険性の核心は、箱ブランコが最も下まで降りたときに地面との間にどのくらいの空間(クリアランス)が確保されているかという点にある。このクリアランスが子どもの体の厚さ以上、確保されていれば、子どもが箱ブランコの下に倒れても、箱ブランコと地面の間に挟み込まれることはない。しかし、このクリアランスが子どもの頭部の直径以下の場合、子どもが地面に倒れるという事故が起きた場合に、そこに揺り戻しで戻ってくる箱ブランコが乗り上げるような形となってしまう。この危険性を予測することは子どもだけでなく、大人にも難しい。

この事件においては、箱ブランコの危険性について、全く面識はなかったものの技術士の方に連絡を取り、危険性についての意見書を書いていただいた。また、その方の紹介で京都大学の先生にも、箱ブランコのもつ危険性についての数学的な解析をして頂いた。

それによれば、箱ブランコの動きは、左右方向の揺れはあるものの、上下方向にかぎって観察すれば、要するに200kgある鉄の塊が、地上数センチメートルの所から50cmの高さまでの間を上下にピストン運動をしているのと同じこととなる。横方向の動きであれば、揺れる箱ブランコと衝突したとしても、その衝撃は反対方向に飛ばされることによって和らげられる。しかし、箱ブランコと地面との間に十分なクリアランスがなく、揺り戻してくる箱ブランコと地面の間に挟まれることとなると、結局、上下にピストン運動をしている200kgの鉄の塊と地面との間に子どもの体が直接挟まれることとなってしまう。この場合は、挟み込まれることによって、衝突の衝撃は逃げ場がなくなり、すべて挟まれる子どもの体(本件では頭部)への衝撃となってしまうこととなる。そうした場合の衝撃の大きさは、想像すれば誰にでも理解はできるものであるが、説明されないと大人でもここまでの理解はできない。

本件では、F市側は、通常の安全基準を満たして設置していることなどを主張した。これに対して、当方は、この箱ブランコと地面の間のクリアランスが、子どもの頭部の挟みこみを回避するだけの十分なだけ確保されていないことが、瑕疵であると主張した。

最終的には、前記の技術士の方の鑑定意見も功を奏して、市との間で相当額を支払うという賠償に関する勝利的な和解によって解決した。

なお、本件と前後して、沖縄でも同様な事故が発生して、同様に訴訟になっていた。沖縄の訴訟は、1 審敗訴したが、その弁護団から本件訴訟の証拠書類の提供を求められ、依頼者の了解のもと、沖縄の事件に本件の鑑定書等を参考に送付した。最終的には沖縄事件も、勝利的な和解によって解決をすることとなった。

なお、こうした裁判の流れの中で、全国の公園から、箱型ブランコは一斉に撤去されるようになっていった。我が家の近くの公園にある箱型ブランコも撤去はされないものの、固定されてしまい、ブランコではなくなり、ただの鉄の塊の対面ベンチとなってしまった。

しかし、これは、箱型ブランコの危険性の本質が、ブランコの下部と地面との間のクリアランスが十分でないという点にあるということを理解せず、過剰な規制をしているものといわざるをえない。

子どもが遊びの中で体験し、成長の糧とすべき「許された危険」と、子どもが危険を予測できず教育効果もない代わりに事故が発生した場合に致命的な結果をもたらしかねない「許されざる危険」を区別せずに、事なかれ主義の対応となっている。裁判を起こすことは、時としてこうした過剰反応を引き起こしてしまうこともあるのは、ひとつのジレンマである。

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