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行政・環境事件

東京大気汚染公害訴訟

1996年に、東京都内に居住する気管支ぜん息などの公害患者が、大気汚染の原因を作った幹線道路設置者(国・東京都・首都高)と、公害対策を十分とっていない自動車(特にディーゼル車)を製造・販売した自動車メーカー7社(トヨタ、日産、三菱自動車など)を相手取って、損害賠償と環境基準以下への汚染物質の排出の抑制を求めて訴訟を提起した。

大気汚染裁判の歴史を概観すると、その嚆矢となった四日市公害裁判は、四日市コンビナートというまとまった企業群とそれに隣接する磯津地区住民という構図であった。その後、臨海部の工業地帯の固定発生源による汚染が問題となった倉敷・水島コンビナートの訴訟もあるものの、多くは、都市部における臨海部工場群からの汚染と、幹線道路群からの自動車排ガスによる汚染の複合汚染が問題となった(川崎、大阪西淀川、尼崎、名古屋南部の各訴訟)。

これに対して、東京都における大気汚染は、固定発生源がほとんど問題にならず、大気汚染の主原因が自動車排ガスによるものであるという点で、特徴的なものであった。また、製造物責任に近い自動車メーカーの責任を問うた点も、初めての試みであった。

しかし、突出した特定の汚染源を持たないと言うことはそれだけ汚染構造の解明が困難を伴うということを意味する。また、わが国の工業技術の先端をいく、主要自動車メーカー7社を被告として、技術論争することは、法律家としても覚悟のいるものであった。

裁判では、都内にある無数の幹線道路からの自動車排気ガスの排出実態とそれが地域全体を汚染していること、いわゆる「面的汚染」の解明が一つの重要な争点となった。原告側は、環境総合研究所の青山貞一さんに大気拡散シミュレーションを依頼し、多数の幹線道路からの排出が累積することによって、東京都全域が広く面的に汚染されている実態を解明した。また、大きな争点となった、大気汚染への曝露と気管支ぜん息などの発症の因果関係については、新たな動物実験の知見などを踏まえ、従来の訴訟以上に厚い立証を行った。

一審判決は、12時間交通量において4万台を超える幹線道路の沿道50mの範囲において、当該道路から排出される大気汚染物質と沿道住民の気管支ぜん息の間に因果関係を認め、かつこれらの幹線道路の設置管理の瑕疵を認定して、国・東京都・首都高に対して損害賠償を認めた。他方で、沿道以外の後背地に居住する原告との関係では因果関係が十分解明されていないとして棄却し、また、自動車メーカーについては、どこまで対策をとれば被害が回避できたのかを的確に知り得なかったとして責任を認めなかった。

判決当日は、被告自動車メーカーとの集団交渉が予定されていた。自動車メーカーは裁判では勝った側であったが、自動車排ガスによる大気汚染の存在自体は否定できないことから、原告との間で引き続きの話し合いを持つことを書面で確認せざるを得なかった。

控訴審に場を移して以降は、政治的な取り組みも重視した。東京都がディーゼル車による黒煙対策を強化し、ディーゼルNO作戦を展開していることも追い風となった。

最終的には、高裁において、(1)自動車メーカーが被害者に不十分ながら解決金を支払う、(2)国・首都高・東京都と自動車メーカーの負担によって、東京都が都内在住の気管支ぜん息患者の治療費の自己負担分を全額補助する制度を創設すること、(3)幹線道路を中心として公害回避に向けての各種の対策をとること、(4)PM2.5の環境基準を検討すること、などを内容とする和解が成立した。

この和解に従い、翌年には東京都は気管支ぜん息の治療費救済条例を制定して、都内の気管支ぜん息患者は治療費負担を気にすることなく十分な治療を受けられるようになった。また、翌々年には、PM2.5について米国並みの新しい環境基準が制定された。

このように、東京大気汚染公害裁判は、大きな成果を挙げたといえる。また、都内の大気汚染状況は、訴訟進行過程で、NOx・PM法の規制強化、条例による規制強化などによって大幅に改善されるに至っており、近年は、NO2、SPMとも幹線道路沿道においても環境基準を達成するに至っている。今後はPM2.5の問題が大きな課題となるが、訴訟提起時にはNO2・SPMの環境基準の達成の目処が立っていなかったことからすれば、環境改善の観点からしても、この訴訟の果たした役割は大きかったといえる。

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