野球の試合の前には、各チームがそれぞれ7分間、試合前の守備練習をすることとなっている。その練習中に、監督がノックした硬球が生徒A君の頭部を直撃して脳挫傷、そしてその後遺症として高次脳機能障害が残ってしまったという痛ましい事故が発生した。

 この事件について、生徒側から学校法人に対する損害賠償を請求する訴訟を提起した。

 試合前の守備練習は、慣例的にまず、内野のノックを行い、それが一巡した後に、外野へのノックに移る。その最初が、「レフトへのバックセカンド」というものである。レフト線ぎりぎりのヒット性の当たりがあった場合に、打者をセカンドで刺すことを目指す練習である。ノッカーはホームベース付近でノックを打ち、レフト線ぎりぎりの方向に打つことから、三塁手のいる場所をボールが飛んでいくこととなる。そこで、三塁手A君としてはノックの場面を見ていないと危ないこととなる。ところが、本件では、レフトのバックセカンドの第1打については、A君はノックされたボールがレフトによって捕球され中継のショートに連携されているところを見ていた。ところが、まだボールがショートによって連携されている段階で、監督が、A君に声を掛けることもなく、レフトのバックセカンドの第2打を打ってきた。A君としては、未だショートが第一打の打球を中継している場面をフォローして注視していたので、体もセンター方向を見ていた。ところがそこに、後方から監督がノックした第2打が飛んできて、センター方向を見ていたA君の頭部・右後方を直撃した。

 硬球であり、脳挫傷という重大な傷害となった。その後治療を続けたものの、いわゆる高次脳機能障害という重大な後遺症が残存することとなった。

 この裁判では、最大の争点は、声をかけることなく第2打を打った監督に過失があるか、仮にあったとしても、そもそも三塁手はレフトのバックセカンドの練習の際に、通常の守備位置にいていいのかそれとも危険があるから待避しておくべきであったのかという過失相殺の有無という点、にあった。

 私は、野球に関しては門外漢であることから、熊谷市内で甲子園出場経験が多いことで有名な高校野球の監督に、実際の試合前の守備練習がどのような形で行われているのか等、いろいろと現実の練習の話を踏まえてアドバイスを受けた。また、東京の後楽園ドームの中に野球図書館があるということを聞いたことから、その図書館まで野球事故の裁判例の調査等にもいった。そうした中で、ほぼ同様な事故形態において、3塁コーチャーズボックスにいた生徒が、ホームからノックした監督の打球に当たった事故についての裁判例を見つけることができた。この事案では,ノッカーの過失が8割、生徒の過失が2割という判定で、ノッカーの責任が認められていた。

 最終的には、こうした先行裁判例を踏まえつつ、早期の解決を希望されるご両親の意向も受けて、判決ではなく勝利的な和解によって事件は終結することとなった。