正月休み明けに、みぞおちの部分に痛みがあるということで50歳代の男性Aさんが、埼玉県北部地域にある総合病院に受診した。休み明けで、外来が混雑している中、担当医師は充分な診察もなく、みぞおちの痛みを消化器系の痛みと判断して、ブスコバンという消化器の痛みを抑える注射をした。

 その後、診察室前で待機していたAさんは、「気分が悪い」といって、トイレに行った。付添で来ていた妻が、Aさんが、なかなかトイレから出てこないことを不審に思い、男性看護師さんに様子を見てもらったところ、トイレ内でAさんが倒れており、心肺停止状態となっていたという事件である。

 この事件では、Aさんに高血圧の既往があること、診察時に煙草を吸うとみぞおちの痛みが増悪すると述べていること、心筋梗塞でもみぞおちに痛みが現れることなどから、Aさんのみぞおちの痛みが、程度の重くない心筋梗塞によるものであること、しかるに、ブスコバンは心臓に負荷を掛ける作用があり、心疾患のある患者には禁忌であるにもかかわらず、これを見落としたとして、過失を構成した。

 裁判では、病院側は、心疾患の存在自体を争ってきた。医師の証人尋問が実施され、その中で煙草による増悪の点についての医師の不自然な説明を追及した。

 証人尋問後、病院側も医師の責任を認めたものの支払い能力がないという、見苦しい言い訳を述べ始めた。

 最終的には、遺族の意向を尊重して、相当高額の賠償金を定めて和解で訴訟を終了させた。