2011年事務所ニュースから

違法な取調べは許さない ~密室にメスを入れるために~

 この事件は、ある夫婦を検察官が偽証罪で逮捕したことに始まります。検察官は、夫に、妻の体調が悪くこのままでは死んでしまうかもしれないと告げ(ただし、実際は熱があっただけ。)、自白すれば妻を釈放すると言い自白を迫り、夫は妻の身を案じ嘘の自白をしてしまいます。一方、発熱し体調不良であった妻には、取調べの間、人格を傷つける発言を繰替えして大声で怒鳴るなど強く自白を迫る取調べをしていました。ほかにも自白を促す夫の手紙を妻に見せる、夫と妻を同席させ妻に夫の自白を聞かせるなどの取調べを行いました(なお、その後に妻だけが起訴され、刑事裁判では、検察官により不当な取調べがなされたと認められ、自白調書や夫の手紙すべてが証拠から排除され、1審の判決は無罪。2審も控訴棄却され無罪が確定となりました。)。この検察官による取調べが違法であるとして国を訴えている事件です。対象となる取調べを行ったものが警察官ではなく検察官によるところが、特徴的な事件でもあります。この取調べで夫婦は大きな損害を受けました。特に妻は、過酷な取調べにより心に大きな痛手を受け、現在も苦しんでいます。
 国は、「検察官が違法な取調べをするわけがない。」などとして検察官の取調べに違法性はなかったと主張します。また、国は、ご夫婦が身柄拘束中に取調べで何が行われたかなどを書き留めたノートに対しても、記載内容に信用性がないと主張します。可視化されていない密室での取調べでは、取調べ内容を明らかにすることは困難です。
 昨年発覚した大阪地検特捜部の検察官による証拠改ざん事件により、「検察官が違法な取調べをするわけがない。」という言葉は、もはや何の説得力も持たなくなりました。それにもかかわらず、取調べが可視化されていない現在、そもそも「検察官が違法な取調べをするわけがない。」かどうかをチェックする手段がないのです。仮に取調べが可視化されていれば、取調べに違法があったか否かをチェックすることは容易であるばかりか、密室ではないため本件のようにご本人達が傷つくような取調べは起こらなかったとも言えるでしょう。
 本件での検察官による取調べの違法性を明らかにして、ご本人様達の無念を晴らし、国へ反省を求めねばなりません。さらには、二度と同じ悲劇を切り返さないために、取調べの可視化に向けた流れへと繋げていければと思っています。

~国が責任認め、勝訴的和解へ~

 検察官らに違法な取調べをされたとして、あるご夫婦が国を訴えていた訴訟が、今年6月13日、国と和解となり終了しました。記者会見を開き、マスコミ報道もありましたが、改めて事件を簡単に紹介します。

 ある刑事裁判で証言をしたご夫婦が、偽証の疑い(刑事裁判は無罪)で、さいたま地検特別刑事部(東京地検なら特捜部にあたります。)に逮捕されました。逮捕後自白しない妻に、担当検察官は「獄中死しろ」などと長期間にわたり言い続け、一方で夫には体調不良の妻を助けるために自白せよと迫り、夫が妻を助けるために自白すると手紙を書かせ、今度はその手紙を妻に見せて自白を迫るという取調べが行われました。これらは違法な取調べであり、その違法な取調べで受けた精神的損害に対して国に賠償せよと求めたのが本件です。

 裁判で、国は、こちらが主張する検察官らの行為をすべて否定しました。

 そのため、取調べの実態を明らかにするために、2日間をかけて当時の検察官3名の証人尋問とご本人の尋問を行いました。

 尋問の結果、裁判所は取調べに問題があったとの考えを示し、ご夫婦が取調べにより精神的苦痛を受けたことを国も認めて、慰謝料をご夫婦に支払う内容で和解が成立しました。慰謝料とは不法行為による精神的損害に対する賠償金です。したがって、国が慰謝料の支払いを認める意味は、検察官の取調べが不法行為にあたることを認めたこととなります。国は本件のように事実の有無についての対立が激しい場合、責任を自ら認めることはほとんどありません。しかし、尋問の結果、言い逃れができないと判断したことは明らかでした。

 この事件は、取調室という密室で行われました。取調べが可視化されていれば、本件のような取調べはできないため、悲劇は起きなかったと思います。可視化に向けた動きは、本件の提訴時より進んでいるとは言えます。しかし十分とは言えません。国は、本件を真摯に受け止め、可視化を含めた再発防止策に取り組む必要があります。

 本件に4年の間関与して思うのは、本当の意味でご夫婦の無念が晴らされる時は、取調べの可視化が行われて違法な取調べがなくなった時なのだろうということです。