少数派株主の株式買取請求事件(全部取得条項付種類株式の取得に対する価格決定申立非訟事件)を担当した。

 神奈川県に本社のある上場企業M社の従業員が、従業員持株制度によって、子会社の自社株式を保持していた。そうした中、企業グループの再編が迫られることとなり、90%以上の株式を有するM社側が、同一の株式総会において、(1)子会社を種類株式発行会社とする決議、(2)すでに発行した普通株式を全部取得条項付株式とする決議、(3)親会社が株主総会の決議で全部取得条項付種類株式を全部取得できるとする決議、(4)全部取得した場合に普通株式1株との引換えに数十万分の1株の割合の株式を交付するとの各決議を行った。依頼者は、上記総会後に当事務所に相談し、受任することとなった。依頼者は受任前に上記各決議に反対していたため、受任後、まず株式の買い取りを子会社に請求した。その後、全部取得条項付株式の価格の決定をY地方裁判所に申し立てた(商事非訟事件)。

 本件では、従前、子会社と従業員との間で、将来における「株式の譲渡に際しては、株式の取得時の額面価額で譲渡する。」という念書が取り交わされていた。この念書の効力が、全部取得条項付株式の場合にも及ぶかが主な争点となった。子会社は当然のことながら、念書の存在及びその効力が全部取得の場合にも及ぶのであるから、「額面での買取が当然である」という主張であった。これに対して、当方は、会社法上の全部取得付株式の全部取得は、強制的に取得される規定であるため、譲渡=「意思表示による財産権の移転」ではないことから、譲渡に関する念書の効力はこの場合にはおよばない。よって、原則に戻って「時価」によって算定すべきであるとし、子会社の貸借対照表及び不動産についての含み益を推定して、買い取り価格を主張した。裁判所は、額面での買取を主張した子会社の主張を明確に排斥したが、他方、「当然に時価相当である」という当方の主張も完全には受け入れなかった。こうした中、最終的には、額面の約20倍程度の価格による買い取りで合意し、勝訴的和解と評価できる結末となった。株式の価格決定の申立には、短期の除斥期間(「株主総会の日から二十日以内」)が設けられていたため、受任当初の処理に気を配った事件である。