母親所有の自動車を長男が運転し、長女が後部座席に乗車していて、大きな事故を起こしてしまい、長女が「常時介護が必要」とされる寝たきり状態になってしまったという家族内の痛ましい交通事故を担当した。

 この場合、未成年の長女に長い将来にわたって介護が必要となることから、これに見合った充分な賠償が必要とされる。しかし、事故を起こしたのは実の兄であり、自動車を使わせたのは実の母親である。家族に請求することは忍びないという気持ちは当然ある。悩ましい事件であった。

 こうした難題に対して、弁護士のアドバイスは、実の兄に了解をもらい、被告とされることを受け入れてもらうということであった。当然ながら任意保険に加入していたことから、兄の責任が認められれば、自動車保険会社から、長女の介護に必要な資金が確保されることとなる。そうしたことを踏まえ、「長女の将来の介護のため」ということで、実の兄を被告として訴訟を提起した。

 この事件では、残念ながら、裁判提訴後に、長女が事故による障害に起因して他界してしまった。長女の損害賠償請求権は、弁護士のアドバイスによってすべて父親が相続することとする遺産分割を行った。

 保険会社は、母親も、自動車損害賠償法3条の運行供用者責任を負担しており、長女の死亡によって自動的に2分の1の賠償請求権を相続したのであるから、この賠償請求権と自賠法の債務が混同によって消滅したという主張をして抵抗してきた。

 最終的には判決に至り、長女が受けた損害の全額についての責任が認められ、かつ母親との関係によっても減額されないこととなった。法律論としては、全ての論点で保険会社に打ち克った点はうれしいが、「将来の介護費用のため」として始めた訴訟が、途中で長女が亡くなってしまうこととなり、複雑な思いを残すことなった事件である。

 また、この事件では、当初の請求で任意保険会社自体を被告に加えておくべきであったこと、長女死亡後は遺産分割ではなく母親の相続放棄手続きで対処するのがより望ましかったことなど、反省点も残る事件である。